STANDARD MANUAL《笹部浩昭さん インタビュー》
北天神は県立美術館の入り口からすぐ、須崎公園沿いに路面店が並ぶ中、シンプルなロゴタイプと軒先の自然なディスプレイが目を引く気持ちいい店がある。
「見慣れた道具が並んでいるけど、なんだかやたらとカッコいい。」そんな感覚をおぼえる生活雑貨と道具の店、「STANDARD MANUAL」の笹部浩昭さんに、北天神のことやお店への想いを伺った。
お店をはじめたきっかけや「STANDARD MANUAL」という店名の由来を教えてください。
僕は、昔からとにかくモノが大好きでした。
カメラやクルマとかももちろん好きなんですけど、それ以外のモノでも例えば、「こんなシチュエーションでこんなものが必要だったらどれにする?自転車買うなら、ヘッドフォンなら、ソファ、工具は?」みたいなことを考えるのが好きでした。
でも突然ホウキが必要になったという時には、自分がいいと思えるホウキを売っている店って分からないので、ホームセンターに行って、「この中から強いて言えばこれかな、でもなんだかなあ」と思いながら選ぶ。だけど、そんな選び方をしたモノにはあまり愛着も湧いていないので、すぐに使わなくなったり捨てたりしてしまう。
それで、日常生活で必要な身近なモノを集めた店があったらいいのにって感じて、さらにそういうモノを男性の目線でセレクトしたような店作ってみたいなと思ったんです。
僕がみなさんの代わりにモノを見て、デザインや作りの良さ、価格のバランスがいいな、これは僕の基準の中でスタンダードだなと思えるモノを集めた店。
つまり、僕の考える「スタンダード」なモノの「マニュアル(手引書)」という意味を込めてSTANDARD MANUALという名前にしました。それが店名の由来です。
確かにニュートラルな印象の商品ばかりですね。セレクトされてる商品の基準があればお聞かせください。
基準はひとつだけで、「自分なら欲しいモノ、買いたいモノ」です。
例えばホウキにしても、職人さんが作る和箒が良いのはわかるんだけど、一本1万円ですと言われても「じゃあ自分なら買うのか?」って考える。それは確かに良いものだろうし、欲しいんだけれど、「他にも欲しいモノはたくさんあるし」って考えると、3~4千円のホウキが今の自分の生活ではバランスがいいなと思うんです。
カメラにしても本当はライカが欲しいけど、それに生活のすべてを捧げるのは嫌なので、バランスを考えてこっちのカメラって選んでる人も多いと思う。でもそれは、価格が安ければ何でもいいよってわけじゃなくて、やっぱりセンスのいいものがいい。
そのために自分で調べて、考えて、想像して、何を選ぶかっていうところが、その人のセンスの見せ所だと思うんです。そういうモノ選びの基準の中でSTANDARD MANUALでは、自分だったらコレを買うな、コレが欲しいな。っていうモノをセレクトしていますね。
それが僕の考える、無理をしない等身大のスタンダード。
そういう意味で「スタンダードマニュアル」っていう店は「僕のモノ選びのスタンダードマニュアル」なんですよね。心のなかはずっとそういう気持ちでやってます。
そうして昨年5周年を迎えられたSTANDARD MANUALさんですが、以前は、早良区城西に店を構えられていました。北天神に移転したきっかけはどんなことだったのでしょうか。
城西で店をやっていたのは約11ヶ月でしたが、自分が想像した以上にお客さんがたくさん来てくれました。みんな「新しくて面白い」「こんなのなかった」と言ってくれて、それが嬉しくて。なんだかずっと続けられる仕事を見つけた気がしました。だからもっとたくさんのモノを置けて、もっと多くの人に見てもらえるような場所でやりたくなって移転先を探し始めたんです。
そこで、今泉や薬院なども探したんですが、やっぱり家賃も高いし、たくさんの人がワッと来て通り過ぎていく感じがなんだか想像できなかったんですよね。今の店舗の物件は、外装も内装も大きく変えずにやれそうだったし、目の前が公園っていうロケーションも気に入ったので、「ここだ!」と思いました。
その時の北天神の印象はどんなものでしたか?
店舗を借りる前は正直、あまりいい印象ではなかったですね。暗い公園があるイメージで、足を運んでみようという感じにはなりませんでした。
ただ、この物件を見つけてから頭がいっぱいになり、このあたりにもしょっちゅう足を運んでいたんです。歩いて回ると、須崎公園は、きれいに清掃や草刈りもされていて、想像していた暗いイメージとは少し違うことがわかってきました。なんだか思っているより良い公園だぞ、と。
でも、そのことを知らない人も多いだろうなと思いました。当時から比べても、公園内は見通しがいいように整備されて、ピクニックシート敷いてお昼を食べたりとか、そういう人が増えてきた気がします。
それから今後、那の津にMaruhachiがオープンして、もっと人が行き来するような流れができるといいなと思いますね。特に競艇場なんかは、中にすごく綺麗な芝生があって、家族でピクニックするにはとてもいい場所なんですよね。
市民会館も新しくなる予定があるので、もっと多くのアーティストが来るようになると思うし、そういうことも含めて、若い人がもっと北天神という場所に日常的に来てくれたらいいなと思います。
移転して4年間、お店を続けてこられていかがですか?
移転後は、以前の店のお客さんや新しいお客さんも足を運んでくれるようになって、画家の沖くん(インタビュー記事はこちら)も以前からよく来てくれていたお客さんの1人でした。沖くんたちが、須崎公園でピクニックした後にうちの店に寄ってくれたりしていて、お互い「須崎公園っていい公園だよね」って話していて、そんな縁で2人でNORTH TENJIN PICNICSというイベントを立ち上げたんです。それがここに越してきてすぐから続いていて、今年で5年目(4回目)になります。
店の商品については、お客さんに合わせてバランスを考えたりしないといけないんですが、そうなると昔からの定番商品がおろそかになったりして、 出来れば今までずっとやってきた商品もちゃんと充実させた上で、新しいことを考えていけるようになればいいなと、最近は思っています。
新しい商品を入れていくと、何かをやめなくてはいけないこともあったり、一度やめてもやっぱりまた入れたくなったり、そのへんのバランスがお店をやってて難しいですね。永く扱っている商品でも、それよりいいなと思える商品を見つけたら変えてしまうし、少し感覚が違ってきたなと思ったらやめてしまう商品もあります。
取引先には申し訳ないけど、付き合いよりも「自分がほしいもの=お客さんがほしいもの」というお客さん目線の気持ちは、常に忘れないようにしています。
それがきっとお客さんに信頼される所以なんでしょうね。お店をやっていて大変なことはありますか?
今はなにより、店を続けていくことが本当に大変なことだとつくづく感じています。僕はそれに気づくのが遅かった(笑)。店の売上が悪いときに、仕入れを減らして店頭に商品が少なくなることもあったりするんですが、そんな時はせっかくワクワクして来ていただいたお客さんに申し訳なくて…。
カウンターに立っているのが辛くて、隣の部屋にこもって作業したりしてました。今は1人なのでそれも出来ませんが、そんなことをしながらの5年間。今までほんとうによくやってこれたなと思うんです。
だから最近思うのは、もちろん常に新しいことをやりたいとか、面白いことをやりたいという思いもあるんだけど、肩肘張らず気を衒わずに「うちは、ずっとここにありますよ」ってスタンスで、お客さんに「あの店ずっと変わらず須崎公園の横にあるよね」と思ってもらえるような店を目指すのもいいかなと考えるようになりましたね。
この場所で、どのようにお店を続けていきたいと思われますか?
モノについて、なんでも相談してもらえるような店になるのが理想かな。
僕は、流行のオシャレな店をしたいわけでもないし、世界中の一流品を集めているつもりもない。やっぱり根底あるのは子供の頃にあった街の金物屋さんなんです。金物屋さんと言っても、洗剤から衣類までなんでも揃えているよろず屋さんのような。
モノを探している人が「こんなの探してるんだけど、良いのないかな」って尋ねてくると一緒に探したくなる。「こんなのありますよ」とか「うちには無いけど、こっちの店にはあるかも」って。そんな店になりたいし、そんな関係でありたいと思っています。
あと、買い物じゃなくても気軽に立ち寄ってもらえるような店でありたいですね。お客さんには結構変わった乗り物に乗っている人や趣味が合う人が多くて、そんなお客さんたちとモノや趣味の話などをしている時間はとても楽しいです。
今後の展開についてお聞かせください。
ミリタリー系やアウトドア用品とか、個人的に好きなんだけどなかなか充実できていない商品をちゃんとやってみたいですね。その上で、今までSTANDARD MANUALを作ってきた商品たちも充実させたい。
もちろんこの店は、以前の店に比べて広さも賃料も違うから好きなことをやるってのは簡単じゃないけど、よく売れるものを補充することの繰り返しになっていくのは嫌なんです。でも、売り上げのためにはどうしようもない部分もあったりして、毎日毎日葛藤しています。
ただ、僕の中の店の評価って、友達や知り合いじゃない常連さんがどれだけ面白がってくれるかだと思っているんです。その常連さんたちは、単純にうちをモノを売っている店として見てくれているので、面白くなかったらあまり来なくなる(笑)。そういう時は、ダメだなとか落ち込んだりして。
だから商品を仕入れるときは、いつも常連さんの顔が浮かんでくるんです。この商品は、きっとあの人も好きだぞとか、この人が店に来たら面白がってくれるかな?と考えてしまいます。そんなふうに、どうやったらお客さんに楽しんでもらえるか?どんな見せ方を工夫するか?って一生懸命考えながらやっていくのが、店の個性だし魅力だと思うんです。
僕もネットで買い物もするし、すごく便利だとも思うんですが、全てが価格とスピードだけで決まってしまうと店の工夫や個性なんかいらなくなるし、ストック棚を置ける倉庫があればいいということでは、街が面白くないと思うんですよ。
大手の通販業界がどんどん拡大して、今は個人の店舗はすごく難しい時代と言われていますよね。正直言うとほんとに大変なんだけど…。ただ、いつか胸を張って「個人の店舗でもちゃんとやってるよ」と言える店にしたいし、街に面白い店を作りたいと思っている人たちに「出来るんだ」と思ってもらいたい。
だから今はSTANDARD MANUALを1年でも永く続けていくということに挑戦中なんです。
===
インタビューから見えてきたのは、洗練された質実さとも言うべきこだわりを手放さず、等身大に悩み挑戦する笹部さんの素顔だった。常に一般的な生活の目線に立ち、自分が本当にいいと思うものを、気取った売り方ではなく共感で手にとってもらう。そんな、一見不器用に思えるやり方で、ここに在り続けることを望む笹部さん。その姿勢そのものが、北天神カルチャーの一端を担っているのだと感じた。
おとずれたお客さんは、笹部さんのセンスで選ばれたモノたちを見て、持ち上げたり握ったり、自分の生活をイメージしながら使う身振りをしている。そんな道具のお店ならではの光景が、印象的だった。(山下舞)
STANDARD MANUAL
福岡市中央区天神5-1-15-1F
営業時間 12:00-19:00
定休日 月曜・第4火曜
ONLINE STORE
standardmanual.stores.jp